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コラッツ予想:確率モデルの適用

 

これまで解析してきた線形確率微分方程式の結果をコラッツの操作にあてはめます。

一般化されたコラッツの操作として、

1)nが奇数なら、3n+2l+1

2)nが偶数なら、n/2

を考えます。

もし、nが奇数ならば、1)と2)の操作を合わせて1回としてカウントします。

 

一般化されたコラッツ予想が成り立つと仮定し、nから出発し、上記の操作を繰り返すと必ずbに到達するものとします。

例えば、l=0の場合はb=1でコラッツ予想、l=1の場合はb=3で成り立つことが予想されます。

これをbに吸収壁がある線形確率微分方程式のモデルで近似します。

dX_t=( (-\mu +\frac{\sigma^2}{2})X_t+\kappa)dt+\sigma (X_t+\eta)dW_t

 

コラッツの統計モデルでは、

確率1/2で\frac{3n}{2}+\frac{2l+1}{2}. 確率1/2で\frac{n}{2}となるので、

\mu=-\log(\frac{4}{3})

\sigma=\frac{\log(3)}{2}

\kappa=\sigma\eta

 とします。

\kappa=\frac{2l+1}{4}としたいところですが、ここではパラメータとして残しておきます。

\xiから出発して、回数tでxに到達する確率密度関数p(x,t|\xi)をtに関してフーリエ変換した結果 g(x)=\int_{0}^{\infty}\exp(ikt)p(x,t|\xi)dt

x< \xiでは

g(x)=-\frac{2w(\xi+\eta){(\xi+\eta)}^{-\beta}({(x+\eta)}^{\beta-1}z(x+\eta)w(b+\eta)-{(x+\eta)}^{\alpha-1}w(x+\eta)z(b+\eta){(b+\eta)}^{\beta-\alpha})}{\sigma^2\Psi_k(\xi+\eta)w(b+\eta)}

 x>\xi では、

g(x)=-w(\xi+\eta){(x+\eta)}^{\alpha-1}\frac{2({(\xi+\eta)}^{-\alpha}z(\xi+\eta)w(b+\eta)-{(\xi+\eta)}^{-\beta}w(\xi+\eta)z(b+\eta){(b+\eta)}^{\beta-\alpha}}{\sigma^2\Psi_k(\xi+\eta)w(b+\eta) )}

 で与えられます。

 

特にk=0と置くと、\xiから出発して[x~x+dx]を通過する回数を意味します。

k=0を代入すると、

x<\xiでは、

-\frac{2w(\xi+\eta)(z(x+\eta){(x+\eta)}^{-1}-\frac{w(x+\eta)z(b+\eta)(b+\eta)}{w(b+\eta)}(\frac{x+\eta}{b+\eta})^{-\frac{2\mu}{\sigma^2}-1})}{\sigma^2\Psi_0(\xi)}

x>\xiでは,

-w(\xi+\eta)({\frac{x+\eta}{\xi+\eta}})^{-\frac{2\mu}{\sigma^2}-1}\frac{2(z(\xi+\eta){(\xi+\eta)}^{-1}-\frac{w(\xi+\eta)z(b+\eta)(b+\eta)}{w(b+\eta)}(\frac{\xi}{b+\eta})^{-\frac{2\mu}{\sigma^2}-1})}{\sigma^2\Psi_0(\xi)}

となります。

ここで、w(x), z(x)

\frac{\sigma^2}{2}\frac{dy}{dx}+\tau y=\mu

の解です。

特にw(x)=\exp(-\frac{2\tau}{\sigma^2 x})です。

z(x)は不完全ガンマ関数を用いて表すことができますが、ここでは具体的に記載しません。w(x), z(x)ともにx^{-1}多項式で表すことができ、xが大きい場合ほぼ1になります。また、\Psi_k(\xi)\sim\alpha-\betaです。

\xi>O(10)について近似式を用いると

 

x<\xiでは、

\frac{z(x+\eta)}{\mu(x+\eta)}

x>\xiでは,

{(\frac{x+\eta}{\xi})}^{-\frac{2\mu}{\sigma^2}-1}\frac{{\xi}^{-1}}{\mu}

 

となりかなり簡略化されます。

この結果からわかることは、xが小さいところではz(x)の項があるので、幾何ブラウン運動モデルからずれること、xが大きくなると幾何ブラウン運動の結果に近づくことです。x<\xiに対する通過回数は、ほぼxに反比例し、その係数は\frac{1}{\mu}\sim 6.95となります。

x>\xiなるxに対し、x以上の数に到達する回数は、

{(\frac{x+\eta}{\xi})}^{-\frac{2\mu}{\sigma^2}-1}\frac{{\xi}^{-1}}{\mu}

 をxから\inftyまで積分し、

\frac{\sigma^2}{2\mu^2}{(\frac{x+\eta}{\xi})}^{-\frac{2\mu}{\sigma^2}}

\xiに関しbから\xiまで積分すると、\xi以下の数から出発した場合に

x以上の数に到達する回数を求めることができます。

これが1に等しくなるxが、\xi以下の数から出発した場合の最大到達数だとみなせます。\frac{\sigma^2}{2\mu}\sim 1なので、

x\sim 2\mu\xi^{1+\frac{\sigma^2}{2\mu}}

となります。

 次にfirst passage timeについて考えます。

 first passage timeがtに等しい確率は

f(t|\xi)=-\frac{\partial}{\partial t}\int_{0}^{\infty}p(x,t|\xi)dx

で与えられ、特性関数は 

\int_{0}^{\infty}\exp(ikt)f(t)dt=(\frac{\xi+\eta}{b+\eta})^{-\beta}\frac{w(\xi+\eta)\Psi_k(b+\eta)}{w(b+\eta)\Psi_k(\xi+\eta)} eq(1)

となります。

この式からモーメントを算出することができますが、ここでは平均値と分散を導出します。

\Phi_k(\xi)=\frac{w(\xi+\eta)\Psi_k(b+\eta)}{w(b+\eta)\Psi_k(\xi+\eta)}とします。

k=0と置くと、左辺はf(t)の定義式から1となるので、

\Phi_0(\xi)=1

これは、w,zが満たすODEからも示すことができます。

\frac{d}{d(ik)}を作用させ、k=0と置くと、平均値が得られます。

E[t]=\frac{1}{\mu}\log(\frac{\xi+\eta}{b+\eta})+\frac{d\Phi_k(\xi)}{dk}|_{k=0}

C=\frac{d\Phi_k(\xi)}{dk}|_{k=0}と置きます。

\frac{d}{d(ik)}を2回作用させk=0と置くと、

E[t^2]=\frac{\sigma^2}{\mu^3}\log(\frac{\xi+\eta}{b+\eta})+\frac{1}{\mu^2}{(\log(\frac{\xi+\eta}{b+\eta}) )}^2+\frac{2C}{\mu}\log(\frac{\xi+\eta}{b+\eta})+\frac{d^2\Phi_k(\xi)}{dk^2}|_{k=0}となります。

ここで、D=\frac{d^2\Phi_k(\xi)}{dk^2}|_{k=0}と置き、平均値の2乗を引くと、

V[t]=\frac{\sigma^2}{\mu^3}\log(\frac{\xi+\eta}{b+\eta})+D-C^2

となります。

幾何ブラウン運動の場合と比較し、平均値も分散も定数部分だけ異なります。

定数を具体的に求めるのは、もし時間があれば・・・。

 

first passage timeの最大値Tを算出するには、まずeq(1)を\xiについてbから\xiまで積分します。すると、first passage timeの度数分布をフーリエ変換した関数を得ます。

このとき、\xiが大きい領域の積分寄与が大きいと考えられるので、\Psi_k(\xi+\eta)\sim\alpha-\betaとします。

積分結果は、ほぼ

((\xi+\eta)\frac{\xi+\eta}{b+\eta})^{-\beta}\frac{\Psi_k(b+\eta)}{(1-\beta)w(b+\eta)(\alpha-\beta)}

となります。次にこの関数を逆フーリエ変換し、度数分布を得ます。

\xi^{-\beta}が逆ガウス分布の特性関数(\mu\to\frac{\log(\xi)}{\mu}, \lambda\to\frac{{\log(\xi)}^2}{\sigma^2})であること、

Tは十分大きいと考えられるので、\exp(-ikT)は激しく振動し、積分に寄与するのは、ほぼk=0付近になると予想されます。そこで、

\frac{\Psi_k(b+\eta)}{(1-\beta)w(b+\eta)(\alpha-\beta)}をk=0の周りでTaylor展開すると、定数部分は1に等しくなるので、度数分布の第0近似はX=\log(\frac{\xi+\eta}{b+\eta})と置き

 \frac{X(\xi+\eta)}{\sqrt{2\pi}\sigma T^{\frac{3}{2}}}\exp(-\frac{(X-\mu T)^2}{2\sigma^2 T})

となります。

これがほぼ1となるTがfirst passage timeの最大値になります(以下の式変形は、以前書いた記事とほぼ同様です)

よって、

-\frac{(X-\mu T)^2}{2\sigma^2 T}+\log(\xi+\eta)+\log(X)-\frac{3}{2}\log(T)\sim 0

という方程式の解がfirst passage timeの最大値となります。

この方程式を近似的に解くため、まず式を

-\frac{(X-\mu T)^2}{2\sigma^2 T}+X+\log(X(b+\eta) )-\frac{3}{2}\log(T)=0

と変形し、

-\frac{(X-\mu T)^2}{2\sigma^2 T}+X=0

の解を求めます。Xに比べ、\log(X(b+\eta) )\frac{3}{2}\log(T)は小さいという条件を仮定しています。すると、

T_0=(\frac{1}{\mu}+{(\frac{\sigma}{\mu})}^2+{(\frac{\sigma}{\mu})}^2\sqrt{\frac{2\mu}{\sigma^2}+1})X=aX\sim 41.9X

となります。

T=T_0+\delta Tとおいて\delta Tの1次まで展開すると、

 \frac{\mu^2-\frac{1}{a^2}}{2\sigma^2}\delta T-\log(X(b+\eta) )+\frac{3}{2}\log(T_0)+\frac{3\delta T}{2T_0}=0

\delta T\sim \frac{2\sigma^2}{\mu^2}(-\frac{3}{2}\log(T_0)+\log(X(b+\eta) ) )

よって、

 T\sim aX-\frac{2\sigma^2}{\mu^2}(\frac{3}{2}\log(T_0)-\log(X(b+\eta) ) )\sim 41.9X-29.2(\frac{3}{2}\log(T_0)-\log(X(b+\eta) ) )\sim 41.9\log(\xi)-43.8\log(41.9)-14.6\log\log(\xi)

他のサイト(*1)でstopping timeと\log_{10}(\xi)の関係についてフィッティングした結果がありますが、その結果と合わせるために1.5倍し、底を10にすると、

144.7\log_{10}(\xi)-245.4-21.9\log(\log(\xi) )

となり、ほぼ一致します。

 

*1  Collatz stopping times - Mathematics Stack Exchange